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35 古キョン前提国木田→キョン
廊下でキョンにぶつかった。珍しい。こんな時間に会うなんて。
貴重な宝物でも見つけた時のように弾む僕の心に、キョンは今日も気付かない。

衝突した時と同じ慌てた顔を上げたキョンは僕を見て心なしか目を丸くしたようだった。

「……国木田?」
「そうだよ。珍しいね、キョン」

部活棟で会うなんて。それにしてもどうしたの?随分急いでたみたいだけど。
矢継ぎ早に質問を投げかけるとキョンが手の甲で口唇を覆ったままうっと黙り込んだ。
そのただならぬ空気に、僕はそれと悟られないほど自然にキョンの背後を窺う。
そこにSOS団の扉がある。室内は静かだった。少なくとも涼宮さんがいるようには思えない。

「いや、あの、別に急いでたわけではなく、その」

しどろもどろに受け答えするキョンの顔が赤かった。
林檎のような色に惹かれて思わず手を伸ばす。

(あつい)

キョンの頬は、それこそ火傷でもしそうなくらい熱い。
うっかりすると、僕の方こそ熱に浮かされそうだ。

と、その時凝視していた扉がかたんと動いて、室内から人が出てきた。
その途端、蕩けていた僕の心はひどくささくれてしまう。黒いものが、溢れる。

「…それでは、僕はお先に失礼しますね」
「……お、おう」

振り返りもせず、俯いたまま素っ気無く言葉を返すキョン。
その僅かに照れた声と、触れた頬の高熱に、僕は大体の答えを知った。

「…国木田?」
「ああ、ごめんね」

瞬間的に頭を過ぎった苛立ちを押さえ付け、思わず立てかけていた爪を両脇に垂らす。
僕は怪訝そうな顔をしているキョンに微笑んでみせた。この顔が齎してくれる効果が十二分に生かされることを待っていると、やがて訝しげだったキョンの表情が解れて普段通りの柔らかさを取り戻す。そう、これでいい。

───そして僕も、行き過ぎた真似はすべきじゃない。
何故ならこれはキョンの肌で、キョンの顔だ。傷付けたい筈がない。

「じゃあ、俺行くから」
「うん。また明日」

目前の人間の胸中など露程も知りはしないキョンが、軽い足音と共に僕の前から走り去る。
その意外に細く、どこか頼りないひょろりとした背中を僕は無言で見送る。
触れた肌の感触を思い出したくて指の先を擦り合わせてみたが、そこにはかさついた僕の感触しかなかった。
ぼんやりとその指を、その尖った爪を見下ろして僕は考える。その爪を突き立てる相手を。
親指で人差し指の腹をきつく押してみる。半月状の痕を、ぼんやりと見つめた。

(もしもこれがあいつの顔だったら、ずたずたにしてやったのに)

尤もあいつの顔になど一生触れたくもないし出来れば目に入れたくもないのだが。
廊下を曲がってキョンが見えなくなった後も、僕は暫くその場に立ち尽くしていた。

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