2ntブログ
閉鎖空間な保管庫
ここは「涼宮ハルヒで801スレ」のネタ保管庫非営利サイトです。 女性向け、BL、801に不快に思わない方のみ自己責任でご覧くださいませ。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
52 古キョン?
「そういうわけだから二人とも頼んだわよ!あ、重い物は全部キョンに持たせていいからね古泉君」
地球の迷惑という迷惑を結晶にした結果誕生したのではないかと本気で思えてしまうような人格を持つ
真夏の熱帯低気圧女ハルヒの話によると、近所の知り合いが引っ越すことになり、
いらなくなった雑貨や何やらをSOS団にただでくれる事になったため、
俺と古泉で取りに行けという事だった。
お前の知り合いから色々いただくわけだからお前が行けばいいだろう、
そんな俺のごく常識的な抗議活動はもちろん徒労に終わり、半ば追い出されるようにして部室を後にした。
こんな暴挙は日常的に行われているので慣れていたが、今回はどうしても行きたくなかった。
いや、行きたくなかったのではなく、こいつと二人きりにはなりたくなかった。
そう、あの日から俺たちは一言だって話していないのだ。

「好きです」
そう告白されたのが五日前。
返事はいつでもいいです、ただ気持ちを伝えたかっただけですから、
そう言って古泉は部室を出て行った。
あの日以来、俺は奴に何かしらの返事をするどころか、
挨拶さえ交わさずに避け続けていた。無論今日もだ。
ハルヒの知り合いの家に行くまでの道中はお互い始終無言、
受け取った荷物を分担するときに「これは僕が持ちますからこっちをお願いします」
みたいな事を話しかけられた時に「あぁ」だか「おぅ」だか返事をしたような気がするが大体は無言、
そして今、プチハイキングコースともいえる学校まで続く坂道を荷物を持って上っている最中だが、
相変わらずどちらも無言で、俺は気まずさに窒息しそうになっていた。

坂を半分ほど上った頃、この重苦しい沈黙を突然破ったのは古泉の方だった。
すみません、と独り言のように呟いてからこう続けた。
「あなたを困らせるつもりはなかったんです。…あの時の事は忘れてしまって結構ですから」
これ以上嫌われたらさすがに辛いですしね、そう言った古泉の笑顔は引きつっており、
無理に取り繕っているのが如実に見て取れた。
「ちがっ……困ってなんか…」
無意識に口をついて出たのは否定、だった。自分でも理解できないこの込み上げる気持ちは何だろう。
情けないほどに狼狽した声で精一杯否定する。そう、違うんだ、あれは寧ろ―
「……嬉しかったんだよ、ただ、」
やっと分かった。認めるのが怖かった。悔しかった。
真っ当で平凡な人生設計をしていた俺がまさか同性を、
しかも大分「普通」の枠から外れているこんな変な奴を好きになるなんて。
夕日のせいにしては異様に赤い顔を見られないように顔を背けたまま立ち尽くしている
俺の視界ぎりぎりに映っている古泉は、あっけにとられたような表情で俺を見ているようだった。
直後、視界から古泉の姿が消え、何事かと驚いてそちらに目をやると
どうしたことか、古泉はその場に座り込んでうな垂れていた。
「安心したら、気が抜けてしまいまして」
情けないですね、そう言って俺を見上げた顔には先ほどまでの悲しそうな笑みは消えていて、
それを見た俺は俺の中の何かが温かいもので満たされていくのを感じた。

俺は両手で持っていた荷物を無理やり片手に持ち替えて、
ほら帰るぞ、さっさと立てよ、そう言って古泉に手を差し伸べた。
元々高めの俺の体温はこの状況下で体温計を振り切るのではないかというほど高くなっていたのだが、
繋いだ古泉の手は俺のそれ以上に熱くて、俺はついに気が狂ったのだろうか、
こんな変態相手にあぁ愛しいな、なんて思ってしまった。

「このまま繋いで帰りませんか?」
「お前って心底キモイのな…………………………………少しの間だけな」
そう答えた後、気付かれないように視線だけ動かして
古泉を見上げた瞬間心臓が跳ね上がるのを感じ、慌てて目を逸らした。
前を向いていると思っていたそいつはしっかりと俺を見ていて、
しかも浮かべているのはいつもの見慣れた、貼り付けたようなあの笑顔ではなく、俺の知らない極上の笑顔だった。

やられた、と思った。俺は自分が思っている以上にこいつの事が好きらしい。
その事に死にたくなるような恥ずかしさと漠然とした不快感を覚えた俺は
くっつくんじゃないかと思うほど眉を寄せて坂をずんずん上っていった。
隣には誰がどう見ても超上機嫌な笑顔の古泉。しっかりと手は握ったまま。

夕日に照らし出された影にふと視線を落とすと、俺の不機嫌な表情は真っ黒に塗りつぶされており、
そこにはただ手を繋いで幸せそうに歩いている間延びした二人の姿があるだけだった。

51 26の続きキョン×古泉 「キョンの得策」

三度俺が口付けようと顔を寄せると、古泉が手でストップをかけてきた。

「あなたに、お願いがあるのですが」
「何だ」
 
 俺が不満気に返事を返すと、
 古泉は俺よりも熱い視線を返してきて、目元は潤んでいる。が、妙に嬉しそうだ。
 これだけだと、下手したら女性よりも、壮絶な色気を醸し出しているのだが、
 如何せんその表情は、人を見透かすような笑顔だ。忌々しい。
 それにお願いときたもんだ。こういっては何だが、
 この状況でのお願いというものは、ロクなことがないと俺の勘が告げているね。

「僕のことを、苗字ではなく、名前で呼んでくださいませんか」

 ほら来た。誰がそんなこっ恥ずかしいこと出来るか。
 俺が苦々しい表情でそう呟くと、
 古泉は肩で息をしながら、少しひょいとすくめるという器用なことをして、

「別に、恥ずかしいことではないですよ……キョン君」

 何でお前が俺の名前を呼ぶんだ。しかもあだ名かよ。

「ああ、もっと言って欲しかったですか? キョン君、キョン君――――」
「うるさい。あだ名で呼ぶな、耳元で囁くな、連呼するな、…………一樹」

 これ以上こいつを喋らせると、更に厄介なことになりそうなので、
 いや、あだ名をその無駄に低くエロイ声で連呼されたのが決してむず痒かったからではないとも言えんが、
 とにかく黙らせるために、そして行為を続行させるために、俺は古泉を立たせて、後ろ向きで壁際に押し付けた。
 いわゆる立ちバックの体制だ。ちなみにヤツのご所望の通り名前を呼んだのは、ただの気まぐれ、もとい逆襲だ。

自分からお願いしたくせに、俺が素直に名前で呼んだことに相当驚いたらしく、
 古泉は動きが停止していた。何だ、そりゃ。
 だが、これはチャンスだ。俺は古泉を壁に押し付けたまま、自分でベルトを外し、
 ジッパーを下ろして俺のいきり勃った愚息を引っ張り出した。
 そのまま、無防備な古泉の後ろに擦り付ける。既に先端からは先走りが出て、ぬるぬるしていた。
 ビクっと古泉の体が震えたのが感じられたが、さて俺はどうしようかと考えていた。
 さすがにこのままじゃ入らないし、きついだろ。何か滑りをよくするものはこの部室にあったのかと思案していると、

「ぼ、くの、上着のポケ……ふぁっ……、日焼けど……く……」

 喘ぎに紛れて途切れ途切れに言葉をなしてないが、古泉の言いたいことは分かった。
 というかこいつは俺の表情を見てないのに、また考えを見透かした。本当に別の超能力を見に付けたのではあるまいな。
 俺は頭の中でぼやきつつ、左手の人差し指とを中指を古泉の口に咥えさせ、
 右手で上着のポケットをまさぐり、蓋を指を使って無理矢理こじ開け、そのまま手に付け塗りたくる。

「んぐっ……んんっ――――」
「そのまま指を舐め続けろ」

 いきなりの行動に少々きつかったのか、くぐもった声をあげ、
 少し目の端に涙を零しつつ、俺の言った通りに古泉は指をいやらしく舐める。
 まるで甘い飴をもらったかのように、ぺろぺろと舐めたり、いちいちツボらしき所を刺激してくると俺の背筋がゾクリとした。
 ちゅる……ぺろ……ぐしゅ……と溢れ出てくる唾液と共に卑猥な音が口から洩れ、俺の耳にも届いてきた。そそるね。

「ふっ……はむっ……あふぅ……じゅる……」
 
 いつになく従順に指を舐め続ける古泉を見詰めながら、片方の手でこれから俺を迎え入れるソコを指でほぐしていく。

「んあっ! あっ……はっ……」

 古泉は突然快感が襲ってきたのか、舐め続けていた俺の指を口から離し、悶える。
 既に視点が定まっていない。足も小刻みに震え、支えてやらないと、今すぐにでも崩れ落ちるだろう。
 俺はじゅぽっと唾液にまみれた指を引き抜くと、てらてらとわずかな光に反射している。
 まるで自分のものではないようだ。と、自分の手を見て思う。
 そのまま手をさげ、さっき弄んだ胸の突起をいじったり、体をまさぐってると、
 俺の挙動に一々反応を返す古泉を見て、さすがに俺もヤバくなってきた。

「くっ、……そろそろ、挿れるぞ」
「いい、ですよ……」

 待ち望んでいたその言葉を聞いた俺はぐっと腰に力を込め、古泉のソコを一気に貫く。

「ひぐっ!」
「うっ……」

 結構濡れていたはずだが、それでも若干痛そうに呻き声をあげ、
 古泉の目の端からは更に涙が零れている。
 俺も入れた瞬間、一気にくる射精感を堪えるためにそれどころではない。
 そろそろと落ち着いてきて、俺は一つ深呼吸し、古泉に尋ねる。

「おい、大丈夫か」
「うっ、だ……大丈夫ですよ……どうぞ、動いてください」

 
 俺はそれを合図に、ゆっくりと動き出す。
 古泉のはギチギチと締まっていて、出し入れする度にギュっと俺のを締め付けてくる。
 荒い息をあげながら、チラリと古泉の表情を伺うと、なんとまた笑顔である。
 それを見た途端、俺は突然その表情を歪ませたい衝動に駆られ、更に激しく貫いていく。

「うぁ……あっ、……激し……キョ……」
「……だから、あだ名で……はっ……」

 喘ぎながら、薄く開いた口の端から涎を垂らし、古泉の顔からは微笑が消え、
 苦しそうに目を瞑り、俺に合わせて腰を動かす。
 その表情はとてつもなくエロイ。今までで一番エロイのではなかろうか。
 じゅぷじゅぽと、俺達の動きに合わせて結合部からは何とも形容しがたい卑らしい水音が絶えず響いている。
 俺の頭の中が段々と真っ白になっていき、境界線やら何が何やら分からなくなってくる。
 だから、俺は気持ち良過ぎて、思わず無意識に口走ってしまった。

「くっ、……イ……イツ、キ、……俺、もう――――!」

 俺の喉から搾り出すような声に、古泉は瞳を見開き、快楽にまみれた表情で応える。

「あはっ、……い、いいですよ……僕の中で、んっ……イって……」
「うっ、くっ……!」

 ドクッ、ドクッと大きく脈動しながら、俺は古泉の中に大量の白濁をぶちこんだ。
 中に入りきらないモノが、ツーと古泉の足をつたって、床に滲みこんでいく。
 俺がイッたことに感じたのか、間を置かず再度古泉もまたイき、そのまま床に崩れ落ちた。

情事の後、ハァハァと二人して荒い息を付きながら、快感の余韻に酔いしれる。
 どう考えてもやり過ぎた。そんなに俺はがっついてたのかね。
 俺がそう心でぼやき腰に手をやりつつ、古泉の様子を見ると、こちらに嬉しそうな柔和な笑顔をニコニコと向けてくる。

「最後、名前で呼んでくださいましたね」
「……さあな」
「意地っ張りですね……。まあ、そんな所が可愛いのですが」
 
 俺がぼかして返事をすると、ふふっと笑いつつ、汗で額に張り付いた前髪を指で除けながら、古泉は囁く。
 おい、普通、そのセリフを言うのは俺じゃないのか。
 だが、俺は余程のことがない限り、こいつに可愛いなんて言うつもりはないぞ。言ったら調子に乗るに決まってる。
 俺が心の中でそう呟いていると、古泉はあの人を見透かすような笑顔で、

「僕は、いつでも期待して待ってますよ」

 と、ほざきやがった。全く、俺が惚れたこの超能力者はどこまでも油断がならないぜ。
 俺はそう心に刻み付け、未だ床にへたりこんでいる古泉に当初から疑問に思っていたことを尋ねた。

「なあ、なんでお前、俺の心を読んだんだ」

 正確には俺の心を読んだような行動を取ったかだが。
 俺が口にした言葉を聞いて、キョトンとしたような表情を浮かべた古泉だが、
 徐々に顔面には柔らかな微笑が拡がっていく。一瞬、コイツを殴りたくなったのは言うまでもない。

「はて、何のことでしょう」
「とぼけるな」
「簡単な事ですよ」 

 俺の突っ込みで、いつもの調子に戻ったらしい古泉は人差し指を立てながら、嬉々として解説役に回る。

「まず、あなたは部室に入るとすぐに、僕に気付かれないように、鞄で隠しながら鍵を閉められましたね」

 バレバレでしたが、と苦笑しながら、古泉は続ける。くそう、バレてたのか。

「部室には僕一人だけということは、あなたの後に涼宮さん達が来る可能性もあるはずなのですが、
あなたは、僕にそのことを尋ねられる前に、鍵を閉められた。
つまり、あなたは涼宮さん達が今日は部室に来ないということを、ここに来る前に知っていらしたということになります」

 その通りだ。俺は普段なら鍵を閉めない。それに俺が部室へ行こうとする道中、
 上ろうとした階段をものすごい勢いで半分涙目の朝比奈さんと相変わらずの表情の長門を引っ張りながら駆け下り、
 『今日の活動は中止よ! 』と、叫びながら声を掛ける間もなく、嵐のように去っていくハルヒに会った。

 俺が押し黙っていると、古泉は少し目を細めながら、

「それに、あなたは優しいお方ですから、先程何か逡巡されるように一瞬動きが止まった時、すぐに分かりました。
あなたが、僕を気遣ってくれている、とね」

 相変わらず勘のいい奴だ。何となくそっぽを向きながら、ある言葉に俺は少しだけ反応する。

「俺は優しくないぞ」
「そんなことはないですよ。でも、優しくしてくださらなくてもいいですよ」
「何だって?」

 今何だかとんでもない発言を耳にした気がする。俺がぐるりと古泉の方を凝視すると、
 上半身を肌蹴たまま、いつもとは違うどことなく憂いを帯びた笑顔を見せた古泉が、
 ゆっくりと、俺の肩に頭を乗せて寄り掛かって来た。

「古泉?」

 肩に重みを感じながら、珍しく口を閉ざしたままの古泉を不審に思い、俺は声を掛ける。
 俺の声に肩をぴくりと反応させ、古泉は唇だけ俺の耳元に寄せて呟いた。


「あなたになら、何をされても構わない」


 そう発した古泉の声は俺が今まで聞いたどれとも違い、低くそして重かった。
 俺が驚き、我に返って顔が近いとか頭重いぞとかその他諸々の文句を言おうとする前に古泉は顔を上げて、


「まあ、やっぱり痛いのは勘弁ですけどね」

 あはは、と打って変わって朗らかに笑う。さっきの無駄に重苦しい雰囲気はどこにいった。
 俺の驚きを返せと言いたいね。言う代わりに、俺は目の前にいる微笑野郎をぎゅっと抱き締める。

「おっと」

 少しだけ驚いたらしい。これで驚き分は返したぜ。
 それでも、俺は古泉を無言で抱き締め続ける。そのまま、関節技を決められるぐらいきつく抱き締める。

「ちょ、ちょっと、キョン君」

 どさくさに紛れて、古泉はまたあだ名で呼んできた。だから、呼ぶなって言っているだろうが。
 でも、俺はあまり気にしないことにする。何故なら俺はそれどころではないからだ。
 更に抱き締め続ける俺に痛いですよ言いながら、全く痛くなさそうな古泉の爽やか笑顔より、
 俺は満面の笑顔に違いない。
 
 そう今の俺の心境、つまり『嬉しい』ってことさ。


50 脇役谷口の目撃
俺の名前は谷口。キョンのダチだ。
最近キョンの野郎がもてている。間違いない。俺自身この目で見たからな。
忘れ物取りに行った時は長門と抱き合ってたし、真夜中テスト失敬しようとしたら涼宮にポニーテール萌えとか言ってるのも聞いたし、
しまいにはあのにやけた野郎と。えーと誰だっけ。まぁいいか。そんな事もあったっけ。あれは少し引いたな。
国木田に言ってみてもキョンはそんな事しないよ。なんて言いやがる。しかし国木田ってよくみるといい身体してるよな。

まぁ、つまり俺のいいたい事はキョンは何故モテるのか。って事だ。
あいつの何処からそんなにフェロモンが出ているのか今度確かめてみようと思う。



谷口ネタ。無理OLZ
49 キョン古(45の古泉視点)
いつもはゲームで負け戦ばかりしている僕だが、ここぞと言う時の勝負には負けたことが一度もない。
今回だってもとから勝算はあったのだ。

僕はそもそも容姿に少なからず自信がある。
今までも女性はもちろん同姓からも「嫉妬の」とは呼べない種類の視線を向けられる事は何度と無くあった。
その粘度を持つ性質の視線を向けられたとき、僕が感じるのは何とも言えない嫌悪と戸惑い、
わずらわしさばかりだったのに。
彼は違った。

彼はとてもそっけない人だった。
何に対しても基本的に無関心のポーズをとり、それは彼がそっけなく接しない人物を探す方が難しい
と言うほどで(朝比奈さんくらいだろうか)僕に対しても例外ではなく、むしろ一際そっけないのでは
ないかと感じられるほどだった。
それでも時折彼が勝手に吸い寄せられたとでも言うかのように僕を見ている事があるのに気づいた時、
僕が感じたのは嫌悪でも戸惑いでも無く、歓喜だった。
そしてその視線には今まで不特定多数の人々から受けたそれと同じように、無意識に僕にむける
性的な関心が含まれているのだということに気付いた時、絶対に無意識のままではいさせない。
必ず自覚して、認識して、受け入れさせてやると決意していた。


彼の前ではそれが標準装備になりつつある笑顔をわざと一瞬やめてみたり文芸部部室に顔を出す
ときには(つまり彼の前に出るときには)いつもより見た目に気を使ってみたり上目使いに見上げて
みたり。夏の日焼け対策までするようになった。
彼はそのうち面白いくらい過剰に反応してくれるようになり、時には真っ赤になって顔をそらすこと
さえあるほどだった。(反応が過敏すぎて顔が近いなどと怒られる事もしばしばあったが、
要するに照れ隠しだろう)
何しろ、彼はかなり面食いだ。
自分の容姿にここまで感謝した事は無かった。

戦局は俄然我方の有利にある。
僕はそう確信していた。
あとはもうチャンスを待つのみ。

意外にもそれは案外あっさり訪れた。
涼宮さんが開店したばかりのケーキ店に食べに行くと宣言して朝比奈さんと長門さんを連行して行ったのだ。
男二人も随行を命じられたのだが、ファンシーな店内にひしめいているであろう女性の団体の中で
手持ち無沙汰に居場所をなくす事が簡単に想像できたので丁重に辞退させていただいたのだ。
そうして文芸部部室に残っているのは彼と彼にオセロの負け戦を挑んでいる僕だけとなり、いわゆる
「二人きり」が完成したわけだ。
ゲームの勝利は彼に譲るが、この勝負にだけは負けられない。
僕は緊張に乾く唇を軽く舐めてゆっくりと口を開いた。

「あなたにひとつ言わなければならないことがあるんです」

彼はちら、と視線だけこちらに向けた後に盤上に白を置いた。僕の置いた黒が一気に6つ裏返されて、
盤上を占める白の割合はいまや7割以上だ。
「お前が超能力者って話ならもう聞いたぞ。それともまた涼宮がらみで何かあるのか?」
「いいえ、涼宮さんはこの件には関係ありません。ボクの個人的な事についてお話ししておきたいんです。」
彼は盤上から顔を上げ、少し驚いた顔をしてこちらを見た。
「なんだ、お前が自分のこと話すなんて珍しいな」
「ええ…」
ひとつ深呼吸する。

「あなたがすきです」

「は…?」
「あなたが好きです。愛してるんですよ」
「なんだ?どういうことだ?愛ってなんだ?」
そんな哲学的な話をしているのではない。
「また孤島の時みたいな機関がらみのどっきりなのか?勘弁してくれ」

予想はしていたがあまりの話の通じなさにイライラしてきた。僕は席を立ち、座ったままの彼の
そばまで歩み寄った。

「機関も関係ありません。僕の個人的な話だといったでしょう。あなたが好きなんです。嘘じゃない。
毎日あなたの事ばかり考えてる。いつ閉鎖空間が発生して神人との戦闘で死ぬかも知れない。
そのままあなたに二度と会えないのかも知れない。今日が最後で明日はないのかも知れない。
あなたが欲しいんです。あなたにも僕を欲しがってほしい。僕にとってこれ以外にない、
これ以上も無い。これが唯一の愛の形なんです。愛してるんです。愛なんですよ、これは。」

僕は呆然としたままの彼にしがみつくようにして抱きつきキスをした。

あれ。

ゆっくりと唇を離しまぶたを開けて伺ってみると、彼は怒りと表現して良い表情をしていた。
しまった。急ぎすぎたのだろうか。絶望に全身が冷える。重い石を胸の中に無理矢理詰め込まれた
ような心地だった。
絶対に拒否されたくない。
欲しいものも失うものも彼以外に居ない。ここで彼に否定されるくらいなら死んだほうがましだ。

突然すごい勢いで引き倒されて思い切り床に後頭部を打ちつけた。
ばらばらと音を立ててオセロの石が周囲に散らばる。
せっかくあなたの圧勝だったのに。
ぐらぐらしてやたら痛む頭で状況を受け入れた。
ああ、良かった。
これで良い。

引き裂くような勢いで僕の制服のボタンを外し胸に顔をうずめて来る彼の頭を心から安堵して抱きしめた。

そりゃあもうショックを受けもしたのだろうが、彼は僕でもあきれることにそれから3日で現状を
受け入れてしまった。
いま、僕は昼休みの誰もいない屋上で床に直接座り込んだ彼の足の間に腰掛けるようにして
お昼ご飯を食べている。
座っている彼の足の間にむりやり割り込んだとき、やめろとか人を椅子代わりにするなとか言われたが、
本気で嫌なら僕をおいて別の場所に座れば良いだけの話だし、そもそも二人きりになれる所になんて
来ないだろう。要は照れ隠しだ。もっとも、あーんといって卵焼きを差し出したときには本気で
嫌がられたが。正しく恋人らしいお昼休みの過ごし方といえる。
考えてみれば宇宙人や未来人や超能力者や神とさえ呼べるクラスメイトの存在を許容した人格の
持ち主なのだ、彼は。結構図太い神経の持ち主なのかもしれない。
一ヶ月は覚悟してたんですけどね。
もちろん絶対に立ち直ってくれなくては困るし、現実を拒否されても困るし、無かった事にするなど
絶対にさせないというつもりで僕が挑んだのだが。

後は涼宮さんにだけはばれない様にすれば良い。
大丈夫だ。絶対に悟らせない。
この関係を破壊することだけはできない。
手放す事なんて出来ない。
彼を愛しているのだ。

48 古キョン
数々のコスプレ衣装と本の山と少々旧型になったもののいまだ
真新しいと言ってもよいパソコンと、さらにはハルヒが持ち込んだ
謎の物体で異次元の古道具屋みたいになっているSOS団の部室で、
いつものように俺は古泉とオセロをしていた。
 なにか買いたいものがあるとかで残念なことに朝比奈さんはお
らず、ハルヒはどうでもいいなにかの理由でまだ姿を見せていな
い。さらには本当に珍しいことに長戸もいなかった。
 なんだか部室はしんとしていて、互いの息遣いさえ聞こえてき
そうで、規則正しいリズムでパチリパチリとオセロの石が板を叩
く音だけが響いていた。

 たっぷりと時間を置いて、実に様になる手つきで、古泉は致命的にどうしようもないところに黒を置いた。
 ちらりと表情を伺うと、嫌になるほど整ったニヤケハンサム面に微かな憂いを浮かべている。真剣な顔をした古泉君も素敵ねっとクラスの女どもなら言うだろうか。
まあ俺は朝比奈さんがこいつを褒めるのでなければどうでもいい。
湯気を立てるステーキ(フォークとナイフつき)くらいにお膳立てされた、最後 の角に俺の白石を置く。立て横斜めの黒ををまんべんなくひっくりかえすと、古泉 が外人のように肩を竦めるジェスチャーをした。
「あぁ…、見事にひっくり返されてしまいました」
「もうお前が置けるところもないな」
 それから数回俺が黒を白にひっくり返して勝負がついた。ジュースを賭けておけばよかったと思うほどの圧勝だった。

ここまでこてんぱんにやられると、再勝負を望む気力もなくなるらしい。おとなしく僅かな白を、賽の河原の小石のように積み上げる古泉に釣られて、俺も手慰みに黒石でピサの斜塔を作ってみる。
「もうひと勝負するか? 今度はジュース賭けて」
 微妙に肩を落としているような相手が珍しくて、俺のほうから水を向けてみる。
「そうですねえ、じゃあ今度はチェスでどうでしょう」
「お前俺が一番慣れてないので…」
「君が賭けようなんて言い出すからですよ」
 お、鴨にされてる自覚があるのか。というか、賭けても負けなきゃいいじゃないか。
「君に奢るのが嫌だと言うわけではないんですけどね。僕につきあってもらうお礼
みたいなものだと思えば」
 白黒が互い違いになった石をまとめてケースにしまう長い指がまた絵になった。
マジシャンのようにもったいぶった手つきで蓋を閉める。
「なんだよ。結局やるのか? やらないのか?」
「やりましょう。君が勝ったらジュースを奢りますが、僕が勝ったら」

 にっこりと、男の俺でさえ魅力を感じる笑顔で古泉は微笑んだ。
「キョン君に僕の言うことをひとつ、なんでも聞いてもらうと言うのではどうでしょう?」


 こいつが俺に望むようなことってなんだろう。
 うんともすんとも答えずにいるうちに、古泉は勝手にチェス盤を机の上に置いてしまった。
 閉鎖空間、つまりハルヒ関係で最近なにかこいつが困るようなことがあったのだろうか。数度しか訪れたことのない、一度訪れたら十分過ぎるあの異様な空間を思い出す。
 あんなところで、赤い光る玉になってあの巨人と戦っているのかと思うと、このにやけた、完璧を絵に描いたような男も、あそこではさすがに笑ったりしないんだろうなと思うと、少し居心地の悪さを感じる。だから考えるのを止めた。
「なんでもってなんだよ」
「簡単なことですよ」
「お前が思う簡単なことってのがわからないから微妙だな。金ならないぞ」
「そういう、金銭面で君に負担のかかることを僕が望むと思いますか?」
「待ち合わせで俺が遅くなった時は遠慮なく奢らせるじゃないか」
 そうは言いながらたしかに、あんなでかい車に乗ってクルーザーやなんやらを好きに出来る『機関』の一員ならば、フランス料理屋でフルコースを奢らされるような羽目にはならないだろう。こいつ自身の家庭環境のことは知らないが。
「たまったストレスを俺を殴って解消させてくれ、とかいうのもごめんだ。暴力反対」
「ストレス、たまってるように見えますか?」
 にこやかな笑顔に反射で眉をしかめる。たしかに、ストレスをためているのは俺のほうだ。おもにハルヒのやらかすあれやこれやで。
「……労働……とかか?」
「いやいや、一瞬ですよ。ほんの1秒か、2秒」
 瞬くような時間であることがかえって怪しい。

痛くなくて、奢りとかそういうことでもなくて、

 灰色の閉鎖空間

 小鳥のように軽い、
 ……瞬間の、体温
 掠めるようにして消える

「…キョン君?」
 我に返ると古泉の顔がものすごく近かった。
 まつげの数さえ数えられそうなほどの距離に反射でのけぞる。のけぞって、俺はそのまま椅子ごと後ろに、
「キョン君!」
 60度くらい傾いたところで古泉に腕を引かれて、なんとか床に転がる事態は避けられた。
 ものすごく心臓が脈打っているのが解る。恐らく顔も赤くなっているだろう。
「あ、危なかったですね。痛くはなかったですか。驚かせてすみません」
「あ、ああ、 サンキュ」
 赤面するのもドキドキするのも、びっくりしたせいだと思いたい。
 挙動不審であるのは十分承知の上で、俯く俺の肩をポンと叩いて、古泉は支度の出来たチェス盤を挟んで座った。
「やめましょうか?」
 長い足を組んで首を傾げる。大人びたポーズは、なんだかびくつく子どもを宥めるようだ。
 俺の側に並べられた白のポーンを掴んで、ガンガンと音高く2歩進めた。
 だいたい、負けなきゃいいんだこんなの。

 ゲームが進んでいけば、やっぱりチェスでも古泉は弱く、あんなに賭けの内容を考えたことが馬鹿らしく思えるほどだった。
「お前なあ…、俺がルール覚えて何回目だと思ってるんだ」
 黒のビショップを盤上から取りあげて転がす。
「……君、どこかで練習してません?」
 してねぇよ。チェスをたしなむようなハイソな家族も級友もいねぇよ。ついでにオセロもトランプも将棋も囲碁も、お前とやるのが何年ぶりかってくらいに久しぶりだったよ。
「負けた時の言い訳か? それは」
 なぜか妙に嬉しそうな古泉のヘボ手の鼻先を叩くようにポーンを取る。
「つかさ、お前こんなに弱くて楽しいか? ゲームしてて」
 俺だったら絶対ふてて止めるね。
「楽しいですよ」
 その語調が奇妙に強くて、俺は古泉の顔を見た。目が合う。もしかしたら古泉はずっと俺を見ていたのかもしれなかった。強い眼差しはすぐに、完璧に作られた微笑にまぎれて消える。
 たわいない話を続けながら、なぜかその言葉が残る。
 戦うということを、考える。負けても終わりじゃないゲームでの勝負を望むのは、だからなのかもしれない。
 あの灰色の空間で戦うと言うこと。
 またなにか顔の赤くなりそうなことを考え出しそうだった。

「チェックメイト」

 ふいに響いた古泉の声に、心臓が跳ねた。

「チェックメイト、ですね。あと3手で詰みだ。キョン君の」
 オセロでもなんでも、置く場所がなくなって完全に勝負がつくまで続ける古泉が、
途中で降参を宣言する。指先が黒のキングを弾いて、ころりと転がった。俺のポーンに当たって止まる。
「残念です」
 欠片も残念だと思ってなさそうな爽やかな声と表情で古泉は言った。
「結局、俺にしてほしいことってなんだったんだよ」
 潔く財布を持って立ちあがる背中に、正直気になってしょうがなかったことを尋ねる。
 いけ好かない微笑みはそのままで、古泉はゆっくりと俺に歩み寄った。椅子に座ったままの俺に合わせるように、腰を屈めるようにする。
 笑っているのに、なんだか気圧されるようで、俺は動けなかった。
 動けなくて、古泉が俺に手を差し伸べるのを見ていた。その手が、少しひやりとした指が、俺の左の頬に触れても、動けずにいた。

 手のひらは俺の頬を完全に覆って、その感触を確かめるかのように軽く押してきた。
 長い指は耳の後ろ、リンパのあたりまで届いて、俺は歯の噛み合わせを意識する。
耳の裏で脈打つリンパの流れを、早くなりそうな鼓動を意識した。顔が近い。息も届く。

「汚れが」
 すうっと線を引くように低い温度を残して、古泉は手を引いた。ぱんぱんと手のひらをはたいている。
「ついてました。さっき転んだ時ですね」
「……ああ、悪いな」
「ジュースはファンタでいいですか」
「ああ」
 目を合わせずに古泉は部室を出ていった。感触の残る頬に、古泉がしたように自分
で触れてみる。顔をすくいあげるような触り方だった。危うく目を閉じるところだった。
 というか、ものすごく顔が熱い。
 なんとか奴が戻る前にこれをどうにか平常に戻さなければと、焦る俺をあざ笑う
かのように、予想より早過ぎる間で、けたたましくドアが開いた。
「なによキョンひとり? なってないわねー! なんか最近たるんでない? ここはひとつ百人一首大会に参加するってのはどうかしらねっ。みくるちゃんには晴れ着よ晴れ着っていうか何赤くなってんのよアンタはー!」
 なんでこの時期に百人一首大会なんだとかちゃんと部室に来てる俺に遅刻してきたお前が何を言うかとか朝比奈さんの晴れ着はいいとかそんないつものドタバタで時間は過ぎて、俺がそれを思い出したのは 家に帰って飯を食って風呂に入って着替えて寝る寸前だった。

 俺は転んでない。