その日の放課後、俺はいつものように部室のドアをノックした。
「どうぞ」
一呼吸置いた後、ドアの向こうからは「はぁい」という麗しの朝比奈さんのではなく、違う声が返って来た。
ガチャッとドアを開けると、案の定、そこには団長と書かれた三角錐がある机に踏ん反り返っているハルヒも、
メイド服に着替えて俺の目と喉を潤してくれる、部室専用のエンジェール朝比奈さんも、
ほぼ定位置の窓際の椅子で、この頃はどこからか持ってきたのか辞書よりも分厚い本を読んでいる長門も、
どこにも見当たらず、無駄にキラめくいつもの人畜無害スマイリーで椅子に座っている、古泉一樹のみが居た。
「お前だけか、他の皆は?」
俺は面白くなさそうに、というか実際面白くなかったのだが、
鞄を机に放り出しながら、とりあえず疑問に思ったことを尋ねてみる。
「さて、どこに行かれたのでしょう。僕が部室に来た時は、何やらお三方が話し合っておられたようですが、
僕の姿が目に入るや否や、涼宮さんが、
『古泉君、本日のSOS団の活動は諸事情により中止よ! キョンにそう伝えておいて。これは団長命令だから!』
と言われながら、長門さんと朝比奈さんの手を引っ張りつつ、勢いよくそのドアから出て行かれました」
と、俺の後ろにあるドアを指差して、お決まりの大きく肩をすくめるポーズをした。
どうでもいいが、そのセリフらしき所を真似た無駄に高い声はハルヒにまったく似てないぞ。どうでもいいが。
それよりも、諸事情とはなんだろう。あいつはまた、何かとんでもないことを企んでいるのではなかろうな。
はあ、と俺はハルヒが計画している何かに巻き込まれる、これからの俺が何かしら抱くであろう苦労を思いながら、
憂鬱な溜息をつき、古泉の向かいのくたびれたパイプ椅子に座った。
「涼宮さんは、どうやらまた何かを計画しておられるようですね」
「ああ、そうみたいだな」
その言葉に出来れば同意したくない俺の苦い表情とは対照的に、
古泉は自分の顎に手を添え、額に指を当てながら楽しげに微笑みつつ言ってきた。
何でそんなに嬉しそうなんだ。お前、あいつが何をやるつもりか知っているんじゃないだろうな。
「いいえ。今回のことについて僕は何も知りませんよ。ただ、涼宮さんが退屈しないことは僕は歓迎しますね。
この頃は沈静化していますが、いつまたあの時みたいに、閉鎖空間が起こるかわかりませんから」
そうだった。こいつは、ハルヒが退屈しない為に、
わざわざ孤島や雪山でのはた迷惑なミステリのシナリオを書き起こすほどのヤツだ。
そのおかげかどうかは知らんが、この頃のハルヒはおとなしかった。それは、もう不気味なほどに。
しかし、この様子だとまた何か起こりそうだな、やれやれ。
俺はいつも目にする光景が消失している部室を腕組みをして眺めながら、今日はもう帰るかと考えていた時に、
そいつは、俺が何を考えているかを見透かすように、不思議な光を湛えた笑みの目を開きながら訊いてきた。
「今日はもう帰りますか?」
「そうだな。団長から活動中止命令が出てるなら、やることないしな。帰るか」
そう返事をし、椅子から立ち上がり俺が鞄に伸ばそうとした手を、突然俺以外の伸びた手が掴んできた。
「おい」
「はい?」
俺が抗議の視線と声を向けても、俺の手を未だ掴んでいる古泉はどこ吹く風の笑みで返しやがった。こいつ。
「その手は何だ」
「本当に、帰るんですか?」
俺の質問を華麗に無視し、古泉は念を押すというかどこか願いをこめたかのように、再度俺に訊いてくる。
その表情は俯いて、前髪に隠れてみえない。
――――どうやら、俺の考えは本当に見透かされてたらしい。
お前は超能力者か、と俺はツッコもうとしたが、本当に超能力者だったことに気付きやめておいた。
変な紅い玉だけではなく、いつの間にか人の心を読めるようになったのか、なんて冗談を言ってみたりできるほど、
俺は冷静だった。気がする。
「……いや、帰らない」
俺がそう言うと、古泉はやっと手を放した。結構ギュっと掴まれていたので痛いぞ。この野郎。
「それはすみません。僕も考えが外れているかもしれないと、少々不安でしたので」
ちっとも不安では無さそうな笑みを浮かべながら言われても、全然説得力がないんだが。
そんなことをぼやきつつ、俺はさてどうしようかと考えていると、また俺の考えを見透かしたかのように、
さっきとは違う嬉しさの微笑みを崩さずに古泉は、
「さて、どうしましょうか。僕は立ちましょうか?」
「……何で俺の考えてることが分かるんだ」
「さあ、何ででしょう。僕もそう望んでいるからでしょうか」
何だと。と、俺が驚いている内に、古泉は椅子から立ち上がり、俺の側に寄ってきた。
「だから、大丈夫ですよ。……何をしても、されても」
顔が近い。耳元で囁くな。微妙に息を吹きかけるな。
「……そんなことを言うと、本当に暴走するぞ」
俺が横目で見ながら少し低い声で真面目に言うと、古泉は全く動揺せずに、
「いいでしょう。望むところです」
と、まるで陰謀を企むかのようにニヤリと笑いながら言った。
よーし、その言葉を覚えとけ。後で憤慨しても知らないからな。
俺は心の中でそう宣言すると、古泉一樹の挑戦を受けた。
時間帯は漸く太陽がその姿を隠そうかという頃だ。
部室の窓は閉まっているが、夕陽に染まるグラウンドから野球部やらサッカー部やらの威勢のいい掛け声が、
まるで遠くから聞こえてくるように、俺の耳に微かに届いていた。
そこまでは、どこの高校にでもある普通の放課後の光景だろう。
但し、俺達が今居る空間――――SOS団の活動場所、文芸部部室はどうやら普通の光景ではなさそうだ。
前にハルヒのおかげで、どうやらこの部室は異空間になっているらしいことは、
SOS団員の宇宙人と、未来人と超能力者から聞いた気がする。あまり認めたくないことだがな。
もしかして、俺はその異空間とやらの影響を受けてしまったかもしれない。とにかく、普通の光景ではないことは確かだ。
その原因はいつも何かを起こす張本人のハルヒではなく、主に今の状態の俺と古泉にあるが。
「んっ……はっ……」
古泉一樹の挑戦を受けた俺は、まず、そのいつもの微笑み混じりの顔を崩すことに決めた。
とりあえず、何故か計ったかのように丁度横に立った古泉の顎を持ち、動かないように固定して唇を合わせる。
無論、手加減するつもりなど全くない。暴走するかもしれないと、俺はちゃんと忠告はしたつもりだぜ。
というわけで、どんどんキスは濃厚なディープになっていく。
何度も角度を変えていく内に、口の端から漏れ出る息と入りきらない唾液が溢れてくる。
「ちゅる……ちゅ……じゅっ……ちぅ――――」
苦しくなったのか、息をしようと口を少し開けたその瞬間を逃さずに、すかさず俺は舌を挿し込んだ。
「!」
古泉は一瞬驚いたかのように身を硬くさせたが、俺はそれに構わず口内を舌で蹂躙する。
下顎を内側から舐め、歯列をなぞり、舌を舐め、絡め、口で口を犯していく。
「ちゅぱ……れろ……じゅる……ふっ……」
慣れてきたのか、古泉も積極的に舌を絡めてきた。
ぐちゅぐちゅとお互いの唾液がいやらしく混ざり合う音が、耳の奥から響いてくる。
ヤバイ、段々頭がおかしくなっていきそうだ。もう既におかしいのかもしれないけどな。
「ぷはっ……はぁ……ふ……はっ……」
さすがに俺も息が苦しくなって、唇を離した。一体何分ぐらいしてたんだよ、おい。
ツーと銀色の糸が架かる先に視線を移すと、俺と同じく半分肩で息をしている古泉と目が合う。
「はぁ……ぁ……さすが……最初から、飛ばしますね……」
いつの間にやら壁際に追い詰めていたらしく、古泉は少し目元を恍惚とさせて、
それでも笑みを崩さずに、壁に寄り掛かっていた。くそ。
息をする度に唇の端から溢れ出た唾液が、顎を伝って頸へと流れ落ちていく様子は、
ハンサム面と相成って、何だか妖しい色気が出ていた。
多分俺も同じ状況になっているだろう。少々やりすぎたか。
「これでも少々なんですか。先が思いやられます」
素早く息を整えた古泉は、遠くを見るかのように目を細めながら笑みを形作る。
まだまだ余裕らしい。俺はといえば、まだ息が少し荒いが、その余裕を打ち崩すべく次の行動に移った。
「つっ……」
抵抗するとは思わないが、一応抵抗できないように両手を頭上に上げさせ、片方の左手で掴み、
もう片方の右手でキチッと締めてあるネクタイをしゅるっと解く。
そのまま、シャツのボタンを上から三つ程悪戦苦闘しながら外す。
余談だが、片手でボタンを外すのは難しかった。誰だ、ボタンなんて発明したのは。
「……結構、力強いですね。あ、一応手首に痕が残らないようにしてくださいね」
さあな。さっきのお返しだ。
「くっ……ん……」
俺はシャツの襟から覗く、白い項に文字通りかぶりつく。
そして、舌で舐め上げながら、上へと位置をずらしていき、丁度視線の先にあった耳たぶを甘噛みした瞬間、
「ひゃ」
と、小さく古泉が呻くのが聞こえた。やったぜ。表情が見れないのがもどかしいが。
「ちょ、くすぐったいですよ。ひぁ……」
調子に乗った俺はそのまま耳朶を噛み、唾液を含ませながらぐちょぐちょと耳を重点的に攻める。
「ひっ……あっ……、……あ……たま、がっ……お、か……し……ああっ!」
どうやらこれは結構効いたようで、古泉の口からはどんどん喘ぎ声が漏れていく。
俺は一旦唇を離し、古泉の表情を観察するべく、正面からじっと見つめる。
「……どうだ」
「はっ……はぁ……さすがに、これは効き、ましたね……。頭の中で……まだ、音が反響してますよ……」
こんな状況でも解説するのはさすがだな、古泉。
俺は妙な所で感心しながら、だが、まだ笑みを崩さないとはどういうことだとつっこんでおこう。
さすがに、表情は恍惚としてるが。中々砦は強固らしい。
俺の少し苦い表情を見たのか、古泉はさらに得意気な含んだ笑みで、
「ふふ、そう簡単に僕はイキませんよ。もしかしたら、あなたが先にイッてしまうかもしれませんが」
「何で俺が先にイクんだよ」
「だって、あなたのココ……こんなにキツそうですよ」
手を塞いでいたから大丈夫だろうと油断していた、と言われればその通りだが、
まさか膝をあげられるとは思いも寄らなかった。
何で攻めている俺の方が感じてるんだと思うほど、俺の愚息はかなり勃起していた。
そこを不意打ちのごとく触られて、
「ぐっ……」
と呻いただけの俺を褒めてやりたい。ちょっとヤバかったが。
「てめえ……古泉……」
「あは、そんなに睨まないでください。僕はあなたにも気持ち良くなって欲しかっただけですよ。……一緒にね」
最後のセリフは、いつものように耳元に唇を寄せられて、囁かれた。
それに、ちょっとゾクっときてしまった俺が分からない。
とりあえず無駄に喋りたがる古泉を黙らせるため、俺は左手の戒めを外し、
右手をシャツの裾から差し入れ、再び唇で唇を塞いだ。
「むっ……ちゅ……はっ……ん……」
右手は古泉の上半身をまさぐり、口はさっきよりも激しく舌を絡めて、何回も貪る様に吸い、食み、お互いを求める。
最初は余裕の表情だった古泉も、俺の右手が胸の突起を探り当ててそこを撫でると、
目を見開いて、笑顔が段々切羽詰ってきた。よし。
俺が唇を離して、顎、喉、頸、鎖骨と今度は下っていくように口付けていくと、
古泉の口からは少しづつ喘ぎを含む、甘い吐息が漏れ出してきていた。本当に甘いかどうかは知らんが。
そのまま俺の唇は、さっき右手で撫でていた胸の突起へと到達した。
とりあえず、舐めてみる。
「ひゃう!」
耳を攻めた時よりも、更に甲高い声が古泉の口から響いた。全く似てないハルヒの真似の声より高かったぞ。
目線を上げると、自分でも驚いたかのように口を手で塞いでいる。結構その表情は面白い。
俺は唇を離し、古泉に言ってやった。
「手で塞いだらつまんないだろ。もっと声を聴かせてみろ」
「や……、自分でもびっくりしましてね。条件反射です」
訳の分かるような分からないようなことを言って、俺が言ったように古泉は素直に口を塞いでいた手をどけた。
何でここだけ素直なんだと、驚いた表情からまだ少し笑みが残っている表情に戻った古泉を見ながら、
俺は最終攻撃を仕掛けるべく、空いていた左手を、そろそろと下半身へと伸ばしていく。
「ひゃ……う……あ……ひ……」
左手を伸ばしている間にも、俺は胸を舐め続ける。
時々甘噛みをすると、少しだけ古泉が拳を握り締めるのが目の端に写る。
そして俺の左手は、とうとうテントを張ってるそこに到達した。
目をチラリとやると、古泉の怒張は結構苦しそうだ。まあ、本人は拳握り締めてるもんな。
とりあえず、俺は予告なくそこを擦ってみた。
「うあっ!」
唐突に快感が襲ったのか、古泉は呻き、表情は笑みが消え、歪んだ。
さすがにこれはキタらしい。やっと砦は陥落したようだ。
それでもイカなかったのは、何だ結構我慢強いのか、こいつは。
「はぁっ……いきなりは反則ですよ。ちょっとヤバかったですね」
「言っただろ? 今日の俺は暴走するかもしれないってな」
古泉の声は少し震えている。
俺は答えながら、古泉のベルトを外し、トランクスごと服を脱がす。
ちなみに上半身はそのままにしてある。いちいち脱がすのが面倒なのは、この際放っておいてくれ。
そのまま直に古泉の怒張に触れる。
「ぐっ……!」
耐えるような、呻き声が漏れる。俺はいつもやられているように唇を耳元に寄せて、囁く。反撃だ。
「さあ、どこまで耐えられるかな……」
最初はゆっくりと全体を擦るように撫でる。そして掌全体で包み込むように上下に扱く。
それだけで、古泉の体はビクンと震え、拳を更にギュッと握りしめた。
「あっ……うぐっ……や……はっ……!」
手を動かしながら古泉の剥き出しの肩に顔をのせ、時々口付けながら、そのまま古泉の表情を観察してみる。
俺の呼吸も荒くなってるから、喋らずとも囁くように耳朶に俺の息が当たって震えている。
耐えるような歪む表情と、快楽に溺れる恍惚の表情をごちゃまぜにしながら、古泉はハッハッと吐息を漏らしている。
そこにはいつもの笑みは影も形もない。その代わりめちゃくちゃエロイ。ヤバイな。
俺以外にこの表情を見たヤツはいないだろう。まあ、これからも誰にも見せるつもりもないが。
ここまできたら俺の暴走はもう止まらない。
「どうだ、古泉……さすがに降参か」
俺はスパートをかけるように更に上下に強く扱きつつ、亀頭を親指でぐりぐり弄びながら、意地悪そうに囁く。
「やっ……あぁ……くぁ……も……ダメ……イク……!」
「いいぜ……イケ」
「イ……アァァァァァァ――――!!」
ドピュッドピュッ、と盛大に俺の手と床に精液を放出し、古泉はイった。
「ハ……ァ……は、ぁ……はぁ……はぁ……」
荒く呼吸をしながら、くたっと力が抜けた古泉はズズズと壁にもたれながら膝から崩れ落ちていく。
その表情は完全に恍惚そのままだった。ついでに何故か笑顔だ。こんなときでも笑うのか、お前は。
そりゃ、あれだけ我慢したら気持ちいいに決まってる。我慢した分気持ちよさも倍増っていうのかね。
ついでに俺も結構頑張ったんだが。というか今も頑張っている。
「はぁ……はい、……ものすごく気持ち良かったです。ありがとうございました」
「大丈夫か。俺は結構ヤバイが」
感謝されて悪い気はしないが、俺がしゃがんで目線あわせて、覗き込むように言ったことは事実だ。
大体あんなエロイ格好を見せられて耐えられることができるのが不思議なくらい、俺は興奮している。
というか、これ以上何かやると確実に理性が吹っ飛ぶと思うんだが。
これで、理性が吹っ飛ばない自信がある方はぜひご一報頂きたいね。
少しは呼吸が落ち着いてきたらしい古泉を見つめながら、俺は耐えていた。
俺の視線に気付いたのか、古泉は元の爽やかさにどことなく妖しさを湛えた笑顔で、
「もう大丈夫です。次はあなたが気持ちよくなる番です。……一緒にね」
「……言っておくが、さっきよりも暴走する可能性大だぞ」
これが本当に最後通告だ。そう思いつつ、古泉に視線を送る。
「いいですよ。……どうぞ、ご自由にしてください」
吐息混じりのその言葉で、俺は次の行動を開始した。
「どうぞ」
一呼吸置いた後、ドアの向こうからは「はぁい」という麗しの朝比奈さんのではなく、違う声が返って来た。
ガチャッとドアを開けると、案の定、そこには団長と書かれた三角錐がある机に踏ん反り返っているハルヒも、
メイド服に着替えて俺の目と喉を潤してくれる、部室専用のエンジェール朝比奈さんも、
ほぼ定位置の窓際の椅子で、この頃はどこからか持ってきたのか辞書よりも分厚い本を読んでいる長門も、
どこにも見当たらず、無駄にキラめくいつもの人畜無害スマイリーで椅子に座っている、古泉一樹のみが居た。
「お前だけか、他の皆は?」
俺は面白くなさそうに、というか実際面白くなかったのだが、
鞄を机に放り出しながら、とりあえず疑問に思ったことを尋ねてみる。
「さて、どこに行かれたのでしょう。僕が部室に来た時は、何やらお三方が話し合っておられたようですが、
僕の姿が目に入るや否や、涼宮さんが、
『古泉君、本日のSOS団の活動は諸事情により中止よ! キョンにそう伝えておいて。これは団長命令だから!』
と言われながら、長門さんと朝比奈さんの手を引っ張りつつ、勢いよくそのドアから出て行かれました」
と、俺の後ろにあるドアを指差して、お決まりの大きく肩をすくめるポーズをした。
どうでもいいが、そのセリフらしき所を真似た無駄に高い声はハルヒにまったく似てないぞ。どうでもいいが。
それよりも、諸事情とはなんだろう。あいつはまた、何かとんでもないことを企んでいるのではなかろうな。
はあ、と俺はハルヒが計画している何かに巻き込まれる、これからの俺が何かしら抱くであろう苦労を思いながら、
憂鬱な溜息をつき、古泉の向かいのくたびれたパイプ椅子に座った。
「涼宮さんは、どうやらまた何かを計画しておられるようですね」
「ああ、そうみたいだな」
その言葉に出来れば同意したくない俺の苦い表情とは対照的に、
古泉は自分の顎に手を添え、額に指を当てながら楽しげに微笑みつつ言ってきた。
何でそんなに嬉しそうなんだ。お前、あいつが何をやるつもりか知っているんじゃないだろうな。
「いいえ。今回のことについて僕は何も知りませんよ。ただ、涼宮さんが退屈しないことは僕は歓迎しますね。
この頃は沈静化していますが、いつまたあの時みたいに、閉鎖空間が起こるかわかりませんから」
そうだった。こいつは、ハルヒが退屈しない為に、
わざわざ孤島や雪山でのはた迷惑なミステリのシナリオを書き起こすほどのヤツだ。
そのおかげかどうかは知らんが、この頃のハルヒはおとなしかった。それは、もう不気味なほどに。
しかし、この様子だとまた何か起こりそうだな、やれやれ。
俺はいつも目にする光景が消失している部室を腕組みをして眺めながら、今日はもう帰るかと考えていた時に、
そいつは、俺が何を考えているかを見透かすように、不思議な光を湛えた笑みの目を開きながら訊いてきた。
「今日はもう帰りますか?」
「そうだな。団長から活動中止命令が出てるなら、やることないしな。帰るか」
そう返事をし、椅子から立ち上がり俺が鞄に伸ばそうとした手を、突然俺以外の伸びた手が掴んできた。
「おい」
「はい?」
俺が抗議の視線と声を向けても、俺の手を未だ掴んでいる古泉はどこ吹く風の笑みで返しやがった。こいつ。
「その手は何だ」
「本当に、帰るんですか?」
俺の質問を華麗に無視し、古泉は念を押すというかどこか願いをこめたかのように、再度俺に訊いてくる。
その表情は俯いて、前髪に隠れてみえない。
――――どうやら、俺の考えは本当に見透かされてたらしい。
お前は超能力者か、と俺はツッコもうとしたが、本当に超能力者だったことに気付きやめておいた。
変な紅い玉だけではなく、いつの間にか人の心を読めるようになったのか、なんて冗談を言ってみたりできるほど、
俺は冷静だった。気がする。
「……いや、帰らない」
俺がそう言うと、古泉はやっと手を放した。結構ギュっと掴まれていたので痛いぞ。この野郎。
「それはすみません。僕も考えが外れているかもしれないと、少々不安でしたので」
ちっとも不安では無さそうな笑みを浮かべながら言われても、全然説得力がないんだが。
そんなことをぼやきつつ、俺はさてどうしようかと考えていると、また俺の考えを見透かしたかのように、
さっきとは違う嬉しさの微笑みを崩さずに古泉は、
「さて、どうしましょうか。僕は立ちましょうか?」
「……何で俺の考えてることが分かるんだ」
「さあ、何ででしょう。僕もそう望んでいるからでしょうか」
何だと。と、俺が驚いている内に、古泉は椅子から立ち上がり、俺の側に寄ってきた。
「だから、大丈夫ですよ。……何をしても、されても」
顔が近い。耳元で囁くな。微妙に息を吹きかけるな。
「……そんなことを言うと、本当に暴走するぞ」
俺が横目で見ながら少し低い声で真面目に言うと、古泉は全く動揺せずに、
「いいでしょう。望むところです」
と、まるで陰謀を企むかのようにニヤリと笑いながら言った。
よーし、その言葉を覚えとけ。後で憤慨しても知らないからな。
俺は心の中でそう宣言すると、古泉一樹の挑戦を受けた。
時間帯は漸く太陽がその姿を隠そうかという頃だ。
部室の窓は閉まっているが、夕陽に染まるグラウンドから野球部やらサッカー部やらの威勢のいい掛け声が、
まるで遠くから聞こえてくるように、俺の耳に微かに届いていた。
そこまでは、どこの高校にでもある普通の放課後の光景だろう。
但し、俺達が今居る空間――――SOS団の活動場所、文芸部部室はどうやら普通の光景ではなさそうだ。
前にハルヒのおかげで、どうやらこの部室は異空間になっているらしいことは、
SOS団員の宇宙人と、未来人と超能力者から聞いた気がする。あまり認めたくないことだがな。
もしかして、俺はその異空間とやらの影響を受けてしまったかもしれない。とにかく、普通の光景ではないことは確かだ。
その原因はいつも何かを起こす張本人のハルヒではなく、主に今の状態の俺と古泉にあるが。
「んっ……はっ……」
古泉一樹の挑戦を受けた俺は、まず、そのいつもの微笑み混じりの顔を崩すことに決めた。
とりあえず、何故か計ったかのように丁度横に立った古泉の顎を持ち、動かないように固定して唇を合わせる。
無論、手加減するつもりなど全くない。暴走するかもしれないと、俺はちゃんと忠告はしたつもりだぜ。
というわけで、どんどんキスは濃厚なディープになっていく。
何度も角度を変えていく内に、口の端から漏れ出る息と入りきらない唾液が溢れてくる。
「ちゅる……ちゅ……じゅっ……ちぅ――――」
苦しくなったのか、息をしようと口を少し開けたその瞬間を逃さずに、すかさず俺は舌を挿し込んだ。
「!」
古泉は一瞬驚いたかのように身を硬くさせたが、俺はそれに構わず口内を舌で蹂躙する。
下顎を内側から舐め、歯列をなぞり、舌を舐め、絡め、口で口を犯していく。
「ちゅぱ……れろ……じゅる……ふっ……」
慣れてきたのか、古泉も積極的に舌を絡めてきた。
ぐちゅぐちゅとお互いの唾液がいやらしく混ざり合う音が、耳の奥から響いてくる。
ヤバイ、段々頭がおかしくなっていきそうだ。もう既におかしいのかもしれないけどな。
「ぷはっ……はぁ……ふ……はっ……」
さすがに俺も息が苦しくなって、唇を離した。一体何分ぐらいしてたんだよ、おい。
ツーと銀色の糸が架かる先に視線を移すと、俺と同じく半分肩で息をしている古泉と目が合う。
「はぁ……ぁ……さすが……最初から、飛ばしますね……」
いつの間にやら壁際に追い詰めていたらしく、古泉は少し目元を恍惚とさせて、
それでも笑みを崩さずに、壁に寄り掛かっていた。くそ。
息をする度に唇の端から溢れ出た唾液が、顎を伝って頸へと流れ落ちていく様子は、
ハンサム面と相成って、何だか妖しい色気が出ていた。
多分俺も同じ状況になっているだろう。少々やりすぎたか。
「これでも少々なんですか。先が思いやられます」
素早く息を整えた古泉は、遠くを見るかのように目を細めながら笑みを形作る。
まだまだ余裕らしい。俺はといえば、まだ息が少し荒いが、その余裕を打ち崩すべく次の行動に移った。
「つっ……」
抵抗するとは思わないが、一応抵抗できないように両手を頭上に上げさせ、片方の左手で掴み、
もう片方の右手でキチッと締めてあるネクタイをしゅるっと解く。
そのまま、シャツのボタンを上から三つ程悪戦苦闘しながら外す。
余談だが、片手でボタンを外すのは難しかった。誰だ、ボタンなんて発明したのは。
「……結構、力強いですね。あ、一応手首に痕が残らないようにしてくださいね」
さあな。さっきのお返しだ。
「くっ……ん……」
俺はシャツの襟から覗く、白い項に文字通りかぶりつく。
そして、舌で舐め上げながら、上へと位置をずらしていき、丁度視線の先にあった耳たぶを甘噛みした瞬間、
「ひゃ」
と、小さく古泉が呻くのが聞こえた。やったぜ。表情が見れないのがもどかしいが。
「ちょ、くすぐったいですよ。ひぁ……」
調子に乗った俺はそのまま耳朶を噛み、唾液を含ませながらぐちょぐちょと耳を重点的に攻める。
「ひっ……あっ……、……あ……たま、がっ……お、か……し……ああっ!」
どうやらこれは結構効いたようで、古泉の口からはどんどん喘ぎ声が漏れていく。
俺は一旦唇を離し、古泉の表情を観察するべく、正面からじっと見つめる。
「……どうだ」
「はっ……はぁ……さすがに、これは効き、ましたね……。頭の中で……まだ、音が反響してますよ……」
こんな状況でも解説するのはさすがだな、古泉。
俺は妙な所で感心しながら、だが、まだ笑みを崩さないとはどういうことだとつっこんでおこう。
さすがに、表情は恍惚としてるが。中々砦は強固らしい。
俺の少し苦い表情を見たのか、古泉はさらに得意気な含んだ笑みで、
「ふふ、そう簡単に僕はイキませんよ。もしかしたら、あなたが先にイッてしまうかもしれませんが」
「何で俺が先にイクんだよ」
「だって、あなたのココ……こんなにキツそうですよ」
手を塞いでいたから大丈夫だろうと油断していた、と言われればその通りだが、
まさか膝をあげられるとは思いも寄らなかった。
何で攻めている俺の方が感じてるんだと思うほど、俺の愚息はかなり勃起していた。
そこを不意打ちのごとく触られて、
「ぐっ……」
と呻いただけの俺を褒めてやりたい。ちょっとヤバかったが。
「てめえ……古泉……」
「あは、そんなに睨まないでください。僕はあなたにも気持ち良くなって欲しかっただけですよ。……一緒にね」
最後のセリフは、いつものように耳元に唇を寄せられて、囁かれた。
それに、ちょっとゾクっときてしまった俺が分からない。
とりあえず無駄に喋りたがる古泉を黙らせるため、俺は左手の戒めを外し、
右手をシャツの裾から差し入れ、再び唇で唇を塞いだ。
「むっ……ちゅ……はっ……ん……」
右手は古泉の上半身をまさぐり、口はさっきよりも激しく舌を絡めて、何回も貪る様に吸い、食み、お互いを求める。
最初は余裕の表情だった古泉も、俺の右手が胸の突起を探り当ててそこを撫でると、
目を見開いて、笑顔が段々切羽詰ってきた。よし。
俺が唇を離して、顎、喉、頸、鎖骨と今度は下っていくように口付けていくと、
古泉の口からは少しづつ喘ぎを含む、甘い吐息が漏れ出してきていた。本当に甘いかどうかは知らんが。
そのまま俺の唇は、さっき右手で撫でていた胸の突起へと到達した。
とりあえず、舐めてみる。
「ひゃう!」
耳を攻めた時よりも、更に甲高い声が古泉の口から響いた。全く似てないハルヒの真似の声より高かったぞ。
目線を上げると、自分でも驚いたかのように口を手で塞いでいる。結構その表情は面白い。
俺は唇を離し、古泉に言ってやった。
「手で塞いだらつまんないだろ。もっと声を聴かせてみろ」
「や……、自分でもびっくりしましてね。条件反射です」
訳の分かるような分からないようなことを言って、俺が言ったように古泉は素直に口を塞いでいた手をどけた。
何でここだけ素直なんだと、驚いた表情からまだ少し笑みが残っている表情に戻った古泉を見ながら、
俺は最終攻撃を仕掛けるべく、空いていた左手を、そろそろと下半身へと伸ばしていく。
「ひゃ……う……あ……ひ……」
左手を伸ばしている間にも、俺は胸を舐め続ける。
時々甘噛みをすると、少しだけ古泉が拳を握り締めるのが目の端に写る。
そして俺の左手は、とうとうテントを張ってるそこに到達した。
目をチラリとやると、古泉の怒張は結構苦しそうだ。まあ、本人は拳握り締めてるもんな。
とりあえず、俺は予告なくそこを擦ってみた。
「うあっ!」
唐突に快感が襲ったのか、古泉は呻き、表情は笑みが消え、歪んだ。
さすがにこれはキタらしい。やっと砦は陥落したようだ。
それでもイカなかったのは、何だ結構我慢強いのか、こいつは。
「はぁっ……いきなりは反則ですよ。ちょっとヤバかったですね」
「言っただろ? 今日の俺は暴走するかもしれないってな」
古泉の声は少し震えている。
俺は答えながら、古泉のベルトを外し、トランクスごと服を脱がす。
ちなみに上半身はそのままにしてある。いちいち脱がすのが面倒なのは、この際放っておいてくれ。
そのまま直に古泉の怒張に触れる。
「ぐっ……!」
耐えるような、呻き声が漏れる。俺はいつもやられているように唇を耳元に寄せて、囁く。反撃だ。
「さあ、どこまで耐えられるかな……」
最初はゆっくりと全体を擦るように撫でる。そして掌全体で包み込むように上下に扱く。
それだけで、古泉の体はビクンと震え、拳を更にギュッと握りしめた。
「あっ……うぐっ……や……はっ……!」
手を動かしながら古泉の剥き出しの肩に顔をのせ、時々口付けながら、そのまま古泉の表情を観察してみる。
俺の呼吸も荒くなってるから、喋らずとも囁くように耳朶に俺の息が当たって震えている。
耐えるような歪む表情と、快楽に溺れる恍惚の表情をごちゃまぜにしながら、古泉はハッハッと吐息を漏らしている。
そこにはいつもの笑みは影も形もない。その代わりめちゃくちゃエロイ。ヤバイな。
俺以外にこの表情を見たヤツはいないだろう。まあ、これからも誰にも見せるつもりもないが。
ここまできたら俺の暴走はもう止まらない。
「どうだ、古泉……さすがに降参か」
俺はスパートをかけるように更に上下に強く扱きつつ、亀頭を親指でぐりぐり弄びながら、意地悪そうに囁く。
「やっ……あぁ……くぁ……も……ダメ……イク……!」
「いいぜ……イケ」
「イ……アァァァァァァ――――!!」
ドピュッドピュッ、と盛大に俺の手と床に精液を放出し、古泉はイった。
「ハ……ァ……は、ぁ……はぁ……はぁ……」
荒く呼吸をしながら、くたっと力が抜けた古泉はズズズと壁にもたれながら膝から崩れ落ちていく。
その表情は完全に恍惚そのままだった。ついでに何故か笑顔だ。こんなときでも笑うのか、お前は。
そりゃ、あれだけ我慢したら気持ちいいに決まってる。我慢した分気持ちよさも倍増っていうのかね。
ついでに俺も結構頑張ったんだが。というか今も頑張っている。
「はぁ……はい、……ものすごく気持ち良かったです。ありがとうございました」
「大丈夫か。俺は結構ヤバイが」
感謝されて悪い気はしないが、俺がしゃがんで目線あわせて、覗き込むように言ったことは事実だ。
大体あんなエロイ格好を見せられて耐えられることができるのが不思議なくらい、俺は興奮している。
というか、これ以上何かやると確実に理性が吹っ飛ぶと思うんだが。
これで、理性が吹っ飛ばない自信がある方はぜひご一報頂きたいね。
少しは呼吸が落ち着いてきたらしい古泉を見つめながら、俺は耐えていた。
俺の視線に気付いたのか、古泉は元の爽やかさにどことなく妖しさを湛えた笑顔で、
「もう大丈夫です。次はあなたが気持ちよくなる番です。……一緒にね」
「……言っておくが、さっきよりも暴走する可能性大だぞ」
これが本当に最後通告だ。そう思いつつ、古泉に視線を送る。
「いいですよ。……どうぞ、ご自由にしてください」
吐息混じりのその言葉で、俺は次の行動を開始した。
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