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22 古泉×キョン
俺は半ばまろびでるようにしてSOS団の部室から逃げ出した。
走りながらすぐに鞄を部室に置いてきたことに気が付く。
あの中には自転車の鍵が入っている。
しかし今更引き返すほどの余裕も余力もなかった。
あの部屋には死んでも戻れない。少なくとも一人では。
なぜってあそこには、あの超常現象の溜まり場みたいな部屋には、古泉がいるからだ。

なんでこんなことになんでこんなことになんでこんなことに。
頭の中で無限に繰り返される言葉は、まるで誰かが俺に後悔のリストでも読み上げさせているかのようだった。
上靴の片方脱げている足を引き摺るようにして、俺はがむしゃらに廊下を逃げ続けた。

「どこへ逃げても無駄なことです」

古泉の高くも低くもない声が長い廊下を反響しながら追ってくる。
それが鼓膜に触れた途端、恐怖で胃の中が引っ繰り返ったような気がした。
足が縺れて、うまく動かせない。
そのまま滑り込むようにして俺は倒れた。
恐怖が全身を縛り付ける。
馬鹿やろう、立ち止まってる場合か!
頼む、立ち上がれ、頼む、頼む、頼む──────

「ね、無駄だって言ったでしょう」

ダメだ。逃げられない。

それでも往生際悪く十本の指で藻掻くように古泉から遠ざかろうとする俺を、悪魔のような顔をした超能力者は軽々と抱き竦めてやにわに廊下の壁へと叩き付けた。
後頭部を激しく殴打して一瞬何もかもを手離しかけた俺を、古泉は穏やかな笑顔で覗き込む。
同時に一見優男ふうの両腕が顔の両側に落とされ、それ以上の世界を遮断した。
古泉のつくり上げた檻の中で、俺は朦朧とする意識を必死に繋ぎ止めようと口唇を動かす。

「お願いだ…もう、こんなことは、やめてくれ………」

古泉は俺の切実な懇願に対して一層嬉しそうに微笑んだ。
幸福そうにも見える。
どうして。

今は心底嫌悪してやまないその顔を睨み付けたつもりだったが、気付けば視界の半分がぼやけていた。
ああ、泣かないで。そんな顔をさせたいわけじゃないんです。
演技めいた大袈裟な口調で俺の眦に口唇を押し当てた古泉を、俺はそれ以上直視できずにきつく目を瞑った。
お前の言っていることは何もかも嘘だ。そんな幸せそうな顔をしておきながら、何を今更。
古泉一樹は歪んでいる。腹の底から。心の底から。

…それでもついこの前までは、俺たちはうまくやってきたんじゃなかったか?
一週間ほど前に見当違いの愛を告白してからすっかり豹変してしまった古泉の顔に、まだ俺は諦めがつかないでいて、何度酷い目に合わされても性懲りもなく以前の面影を探している。
しかし古泉にとってはそれすら俺の弱みにしか見えないのだろう。
なんでだよ。掠れた声で訴えかける俺に、古泉は微笑みかけた。

「愛しているからですよ」

殊更ゆっくりとボタンにかけられた手を振り払う気力も無いまま、俺は目の前に迫る古泉の顔を虚ろに見つめ返した。
絶望がただでさえ狭い胸を圧迫して呼吸さえ儘ならない。
既に大分前から熱くなっていた目頭から、遂に頬を滑り落ちたものが何であったか、こいつはきっとその意味すら真に理解できてはいないに決まっていると思った。



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